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深沢夏衣作品集 2015年10月刊行

各氏推薦!


深沢夏衣はすぐれた在日女性作家である。

明るい透明性をもったその清冽な作品群は、

差別を許容しない真の文学を読む喜びで私たちを満たしてくれる。

 ―― 高良留美子(詩人・作家)




深夜の電車の中で会った若い母親から、赤ん坊をちょいと盗んでみようか、と誘惑にかられる。――この印象的な出だしの作品が「パルチャ打鈴」だ。家族と北朝鮮帰国運動の話を中心に据えているが、一方で自身の原存在の底から創作しようという姿勢と可能性を感じた。

動いていけ、お前の望むところへ。在日の枠を突破する勁さと柔らかさを持つ言葉を模索していたであろう同世代の深沢夏衣が、どう生きてどのように表現したか、この作品集でぜひ確かめたい。

――籠島雅雄(元『群像』編集長)



毅然として可憐。深沢夏衣は、まだきちんとは読まれていない。

できれば全容を、これから読まれるに値する作家でありましょう。

―― 小沢信男(作家)



つまりは、アイデンティティーと帰属意識の問題であろう。幼少時、自らの意志に依らず「帰化者」となった深沢夏衣にとっての文学は、そのことが主題となるのは当然の帰結だったと思う。

しょせん「帰属」なんて幻想よ!と意気がってみても、現実はそうはいかない。もし仮に還籍してみたところで、矛盾が広がるのがオチであろう。それなら、どうすれば?……。

そういう心情を仮託するかのように彼女は、美空ひばりの『悲しい酒』をよく口ずさんでいた。

「一人ぼっちが好きだよと 言った心の裏で泣く 好きで添えない人の世を 泣いて怨んで夜が更ける」と。深沢夏衣の文学は、このことに尽きるように思う。

―― 呉徳洙(映画監督)



深沢夏衣は、その名のとおり、深い山谷に分け入り、沢の水の流れを見つめ、夏の光を透かす衣をまとう作家である。ある意味で、作家としての潜水時間は長く、旅立ってから編まれたこの作品集を通して、ようやくわたしたちは深沢夏衣に正面切って出会うことになった。

何よりも、ここには、ことばの窓が開いてみせた世界を信じる力が貫かれている。絶望と虚無を抱えながらも生き抜かなくてはならない人間の業を見つめた在日朝鮮人だからこそ、夏の光を透かす衣をまとう夢はリアリティを帯びる。

深沢夏衣の名を知らしめた小説『夜の子供』(1992年、新日本文学賞特別賞受賞)は、1970年代の在日の青春群像を活写しながら、日本列島と朝鮮半島とのあいだに広がる荒野に確かな鋤を打ちつづけ、その明快な思索と洞察力は痛快でさえある。そして同時期に執筆していたとされる『花持つ女』や『春陽夢』では、わだかまりの土は掘り起こされ、絡み合う思い込みの根も払われ、「在日の文学」の翼が羽ばたこうとする世界文学の地平が見える。

日本語の平明なトーンのなかに織りこまれていくハングルのヴィヴィッドな響きの発見。異郷の片隅で生き抜くうちに、ことばが親と子を引き離してしまう、その心象風景。絶望の果てを解き明かしてくれる夢語りの道しるべ・・・  

「生存それ自体が孕んでいる絶対の孤独」(坂口安吾『文学のふるさと』)をかみしだくうちに、在日のことばが普遍性を獲得することを再発見したのである。わたしたちは彼女の歩みに思いを馳せながら、何度も読み返していこう。

――ぱくきょんみ(詩人・翻訳家)





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